奈義の龍安寺
明るい小部屋に踏み込むと、もう何か奇妙な感じなのである。足元からの光に浮び上がるこの部屋は、中央には傾いた黒く太い円筒が床から天井まで続いており、それは光を吸収してまるで〈闇〉が実体化したもののようである。床は黄色い地に黒い線で描かれた迷路、天井にはそれが〈反転〉した黒地に黄色い線の迷路。〈迷路〉はアラカワ/ギンズの得意のモティーフであり「反転性」は彼らのキー・コンセプトである。しかも天井も床も中央に向かって盛り上がる傾斜が付いている。見えない何かが、彼らはそれを「ブランク(空白=体)」と呼ぶが、渦巻いている気配。それにしても身体は何か新しい歓迎を受けているようだ。
白い壁もどうやら隅が直角ではないらしく、水平方向の遠近感もおかしい。妙に身体が浮遊しているような感じがするが、体重は足にかかっているので、その床との接触面を支点にした垂直軸だけは、何とか身体の日常の記憶が維持しようとしているらしい。しかし足元からもうバランスに狂いが生じている。
壁の一つの面には、奈義町に住む人達が/を撮った様々のスナップ・ショットが貼られている。これもアラカワ/ギンズの気くばり。安心と不安。快適さと不快感。何と何がアンバランスなのたろうか?
何がギヤップなのか?
さてこれが序章(プロローグ)である。
斜めの不気味な黒い円筒は、後ろに回り込めば入り口があって、これは上階に繋る螺旋階段であった。人ひとりがやっと通れるほどの狭さ。螺旋階段の柱の主軸は傾いているし、手探りでまるで「胎内潜リ」のように、黄色い段々を登ってゆく。階段室の出口に辿り着こうとすると階段のいくつかがない。足で探ると階段が黒く塗ってあって見えないだけなのだった。注意を全身で払えということなのかととりあえす納得する。上方には凸面鏡があり、自己と空間の像の変形によって遠近と上昇下降のイメージが狂わされる。そして問題の〈部屋〉に出る/入る。

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